中村一八の知心コラム


自らつかもうという姿勢

座る位置でわかる

外部の公開講座などを受講する場合、座る位置によって、その人の姿勢や心構えが見えるといわれます。かくいう私も、中小企業診断士受験の専門学校に通っていた23歳の頃、ある先生に耳打ちされたことがあります。それは「後ろに座っている人は合格しないよ」という助言でした。

それからというものの、私はいつも講義がはじまる一時間以上前に行って、最前列を陣取るようにしたのです。その後気づいたのですが、たしかに意識の高い成績上位者たちはいつも一番前に座っていました。さらに驚いたことに、座る位置によって成績が違っていただけでなく、いつも後ろの方に座っている人は、その先生の予測通り不合格でした。

人から本気で吸収したいと思えば、それが態度や表情にでますし、行動にあらわれるはずです。最前列を確保するという行為も、板書だけでなく講師の一言一句漏らさずにノートに書き留めるのも、それらはすべて自らつかもうとする姿勢のあらわれでしょう。

何かをつかもうとしている人は、意識も目つきも違います。講義中や休憩時間などに、質問のひとつもでないのは、「あなた、ほんとうに学ぶ気があるの?」と疑われても仕方がありません。質問とは、自分でつかむための有力な手段のひとつです。ただし、尋ねればいいというわけではありません。尋ね方にも「良し悪し」があります。どのように尋ねるかによって、その人の理解度や関心のもっているテーマもわかるからです。

教えてもらう姿勢

現場でコンサルタントとして、指導する際に頭を悩ますのが、「ボクに教えてください」と、すぐに「答え」を知りたがるAくんのようなタイプです。手っ取り早く、効率よく、自分の知りたい情報を確実に入手したいようです。

Aくんは、模範解答を知ったとき、霧がかかっていたような視界がすっきり晴れ渡り、「そっかぁ!」と一瞬わかったつもりになります。しかし、状況が少しでも変わると、まったく対応できないのです。「あれ?、おかしいなぁ…」と首をひねって、また私に「教えてください」と尋ねにやってきます。

「わからないことがあれば聞く」というのは間違いではありません。ただし、すぐに「答え」を教えてもらおうとする人は、自分で考えない癖がつきます。「自分で考えてごらん」というと、「習っていないからできない」「教えてくれないとわからない」と表情を曇らせます。

一貫しているのは、自分では考えずに、とにかく教えてもらおうとする姿勢です。「自分で考え抜く」という大切な思考プロセスを飛ばして、手間と時間を惜しみ、最短で目標地点にたどり着きたいという感覚でしょうか。

学校では、先生から教わった答えを暗記して答案用紙に書きさえすれば、いい点数がとれたのですが、仕事は違います。商売には、唯一絶対の「答え」など存在しないのです。「答え」は、自分で見つけるしかありません。「これは習ったからできる。これは習っていないからできない」では、商人としては失格です。

「あなたは、何がやりたいのか」「これから、どうしたいのか」というあなたの人生の根源的な問いに対する「答え」と同様に、あなた自身で見つけるしかないのです。

秘伝のスープの作り方

自らつかもうとする姿勢

たとえば、地域一番店として大繁盛しているラーメン屋さんの大将に「スープのつくり方」を聞いても、教えてくれるはずがありません。商品開発にしても、営業戦略にしても、商売の「答え」というのは、だれかに教わるものではありません。まずは自分の頭で深く考え、自分なりの「答え」を見つけることです。

聞くべきは、「答え」そのものではなく、モノの見方や考え方の方です。 その上で、「ボクの答えはこうです。よろしければ、○○さんのご意見を伺いたいのですが…」と質問すべきなのです。常に、自分の意見や自分の案を持つということが大切です。

幸運にも、店主から秘伝のスープをこっそり教えてもらったと仮定しましょう。当然のことながら、苦労に苦労を重ね、やっとの思いで開発した「答え」も、安直に知り得た「答え」も、どちらも同じ「答え」です。しかし、その意味合いや重みは、決して同等にはなりえないはずです。

「答え」を見いだそうとする不断の努力やその過程にこそ大きな価値があるといえるのでしょう。自分は何の努力もせず、簡単に教えてもらおうとする受け身の姿勢では、何も身につきません。人から習えない「答え」もあり、身をもって学ぶしかない「答え」もあるのです。


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