中村一八の知心コラム


白シャツは奥が深い

色の違いは印象の違い

白シャツこそ、ビジネスの基本です。ところが、白シャツを突き詰めるほど、実は奥深いことがわかります。生地、織り方はもちろんのこと、衿(えり)の形状によって、面持ちや雰囲気は変わります。シャツは一見さほど目立たないようでいて、服装全体の印象を決定づけてしまうほどの影響力をもつアイテムです。

濃紺やチャコールグレーなどのダークスーツをもっとも美しく引き立てるシャツの色は、純白とされています。白はコントラストがはっきりするだけでなく、清潔さの"象徴"となっています。

そのため、白シャツはもっともドレッシーな装いとされ、フォーマルな場で不動の地位を築いているのです。ホワイトのほか、唯一許されているシャツの色はサックスブルーです。サックスブルーとは、清涼感のある淡いブルーのことです。相手に誠実さを表現する色として、伝統的に米英で根強い人気を誇っています。

たしかに、世界各国の首脳が集う国際会議などを見てもあきらかですが、シャツの色はホワイト、サックスブルーの二色に限られます。ブルー以外のカラーシャツを着こなすのは、相当着こなしに自信をもつ人であっても、なかなか容易ではありません。

柔軟さと自由な発想をあわせもつイタリア人でさえ、オフィシャルな場に、ピンクやイエローシャツを着用することはまずありません。自己主張しすぎる色は、全体調和を崩しかねない恐れがあり、ビジネスには相応しくないと考えているからです。

色は重要です。色の違いが、印象の違いを生みだすからです。「無難だから…」という消極的な理由でホワイトを選択するのではなく、シャツの色にもその理由と国際的に共通したルールが存在することを覚えておきたいものです。

シャツは"誂え"に限る

シャツをオーダーする醍醐味として、フィット感だとか、着心地だとか、シャツ屋は主張します。たしかに、上質な生地を選ぶと、身体のラインにぴったりとフィットしながらも、違和感や窮屈感を感じることなく、ふんわりと優しい着心地が味わえます。

しかし、フィット感にしても、着心地にしても、昨今の技術革新において、高品質で上質な既製シャツもどんどん開発されていますので、なかなかオーダーシャツと既製シャツの差はわかりづらく、両者の差は縮まっていることもたしかです。

私がシャツを誂えるほんとうの理由は、少しでも長持ちさせたいという、きわめて単純な理由です。シャツを構成するパーツのなかで、すり切れやすく、痛みやすいのは、なんといっても衿と袖口です。度重なるクリーニングによって、縮みやすい部分でもあります。

テーラーなどで仕立てたシャツならば、衿や袖口の取り替えだけでなく、衿型やネックサイズの変更も自由自在です。これは、既製シャツでは考えられないことです。二年〜三年ごとに衿やカフスを取り替えるだけで、まるでシャツそのものが新品のように生まれ変わり、そこに驚きと感動が味わえます。

このように、こまめな手入れや定期的なメンテナンスを欠かさなければ、誂えのシャツは結果として、長く愛用することができるのです。私のなかでは、シャツは"使い捨て"という感覚はありません。使うほどに愛着の持てるものであり、痛んだら繰り返し補修できるのがオーダーシャツの魅力といえます。

3つの心掛け

シャツを仕立てる目的がビジネスである以上、3つの点を常に心掛けるようにしています。第一は清潔感、第二に主張しすぎない、第三としてシルエットです。まず、清潔感こそ、身だしなみの基本です。隅々まで細心の注意を払う努力が求められます。

見落としがちなのは、シャツの袖口です。黒ずみや汚れ、擦り切れは、意外と目につきます。2日続けて同じシャツを身につけてはなりません。毎日洗濯するか、毎日クリーニングに出すということです。

第二の主張しすぎないとは、奇をてらわないことです。シンプルにまとめた身なりこそ、華美を抑制し、相手に不快にさせない身なりの要諦といえます。

白シャツは、実に奥が深い

そして、シルエットで絶対に見落としてはならないのが、ネックサイズです。シャツのサイズは首回りであわせるのが鉄則です。残念なことに、日本では、首回りのオーバーサイズのシャツを身につけた人をよく見かけます。素材の縮みを勘案して、首回りが緩めのシャツを選ぶ結果でしょう。気持ちはわかります。

しかし、オーバーサイズはだらしない印象を与えてしまいます。自分の首周りの寸法(実寸)を正しく把握し、実寸にあったジャストサイズのシャツを選ぶことです。

「喉元はボタンをとめて、指1〜2本が入るくらいの余裕を」とよくいわれますが、それではあきらかに"ルーズ"サイズです。実寸プラス7ミリ前後が、正しいジャストサイズといえるでしょう。

自分の身体にあっているシャツは、やはり見た目もスマートです。シルエットにこだわると、ディテールにこだわりが生まれます。衿ひとつとってみても、衿型、後衿腰・前衿腰の高さ、衿の開きの角度、衿先の長さ、衿芯地の堅さなど、些細と感じるほどのわずかな"点"の違いが、"線や面"となって大きなシルエットの違いとなるのです。

接着芯とフラシ芯

たとえば、シャツの衿羽根(シャツカラー) と袖口のステッチについて、私は1センチ幅のなかに10針以上のステッチを求めます。ステッチは細かいほど、ドレッシーな印象を与えるからです。

また一般的に、ステッチが縁にいけばいく(エッジぎりぎりまで攻める)ほど、より上品に映るため、コバステッチを採用しています。衿の芯地には、大きく分けると2種類あり、接着芯とフラシ芯があります。接着芯とは、表面の生地と衿の芯地を"接着"したものです。

一方、フラシ芯は樹脂で芯地を表地に接着しないものです。よく、高級=フラシ芯といわれていますが、そうではありません。柔らかな風合いを楽しむならフラシ芯、衿を固く仕上げるには接着芯、と用途によって使い分けるのです。

シワのなさをとるか、風合いをとるかで、芯地の選択は異なります。つまり、接着芯だとシワは発生しないかわり、風合いは損なわれるということです。

高番手=良しではない

また、着心地の目安として、「番手」と呼ばれる生地の指標があります。一般的に、「番手」が高くなるほど糸は細くなります。120番手以上の高番手の生地になると、生地がふわっと柔らかな手触りになります。肌触りも違いますし、着心地も格段に良くなります。

ただし、高番手の生地は繊細でデリケートなため、小じわが入りやすく、頻繁に着用するには、耐久性という点で少し不安も残ります。必ずしも高番手が、「よい」とは限りません。

個人的に好きなのはコットン100%、白無地で、160番手以上の上質なポプリン(平織り生地)ですが、おそらく仕事着としては、50〜100番手あたりが適しているはずです。衿型はセミワイドスプレッドカラーで、 胸ポケットなし、前立てなしのフレンチフロントが、私の基本スタイルです。

セミワイドスプレッドカラーはもっとも伝統的な英国風スタイルのシャツといわれ、シャツの衿の外側のラインとスーツのラペルの内側のラインがバランスよく重なり合うため、スーツ・シャツ・ネクタイが三位一体となったVゾーンや衿元が引き締まります。

シャツの衿先は、視線を集めやすい部分でもあります。スーツのラペルの中に衿先が隠れていると、よりエレガントな印象を与えます。

研究こそ、オーダーの愉しみ方

スーツ同様シャツにも、いかなる流行にも左右されない、正統派スタイルというものがあります。それは、永い時間をかけて築き上げてきた"型"そのものといえます。型には、歴史や伝統を受け継ぐ西洋文化が詰まっています。その型を正しく理解することです。

白シャツは、実に奥が深い

ビジネスにおける服装とは、相手に対する敬意そのものです。白シャツを着こなせてこそ、一人前です。満足のいくシルエットにたどり着くまでに、私自身試行錯誤の連続と相当な時間を要してきました。たしかに、スーツにしても、靴にしても、誂えというのは、1回目のオーダーで、なかなかイメージ通りには仕上がらないもどかしさはあります。

しかし、信頼のおけるフィッターとのコミュニケーションの密度を高めていくことで、納得のいくシャツに"たどり着ける"という喜びも同時にあります。これこそ、同じシャツ屋にオーダーを何度も繰り返す粋な愉しみ方です。自分らしい着こなしとはなにかを研究しながら、自分なりの独自のスタイルをつくりあげていく楽しさがオーダーにはあるのです。


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