中村一八の知心コラム


傾聴力とは何か

ゲンちゃん

私が親しくさせていただいている人に傾聴の達人がいます。ゲンちゃんこと、井上源太郎さんです。ゲンちゃんは、日本のみならず、世界中に多くの熱狂的なファンを持つ靴磨き名人として知られています。私の知る限り、彼ほど傾聴力の優れた人を知りません。どんな人に対しても、警戒心や緊張感を自然に取りのぞき、見事なまでに相手の懐に入ります。

各界で活躍する一流人たちを惹きつけ魅了し続けてきたのは、ゲンちゃんの卓越した技術力もさることながら、相手の話を聞くその真摯な姿勢にその理由があると感じています。

傾聴とは何か

傾聴とは、相手と誠実に向き合うことです。相手と誠実に向き合うとは、相手の言葉を耳で聞くのではなく、相手のこころをしっかり受け止めるのです。

相手のこころは、聞き取れる言葉だけでなく、表情やしぐさ、さりげない動作や息づかいにあらわれます。相手の気持ちや感情など、相手になりきって、そのこころを100%理解しようという気持ちで挑むことが大切です。そこには「ズレとモレのないように」という慎重さが求められます。

14の心

本気で傾聴を実践しようとすると、非常に疲れます。「傾聴」という熟語を一つひとつ分解すると、14の心をもって耳を傾けると表します。つまり、身もこころも全身全霊傾けるという意味でしょう。

私もコンサルティングで朝から晩まで何十人ものインタビューを実施した後などは、体重が数キロ減っている場合があります。それだけ、多くのエネルギーを消費しているということでしょう。

もし、長時間傾聴し続けても、まったく疲労感を感じないという人がいるなら、それは聞いている"つもり"になっているだけではないでしょうか。無意識のうちに、自分の都合のいいように解釈していたりするということです。

テクニックでは身につかない

「聞き上手になるコツ」などの本を読んだり、外部セミナーなどに参加すると、決まって相手の目を見つめるとか、うなづくとか、笑顔でいるとか、オウム返しで相手の言葉を繰り返すとか、傾聴時におけるテクニックについて学ぶことができます。

たしかに、むすっと顔をしかめているよりは笑顔の方が、お地蔵さんのように微動だにしないよりはうんうんとうなずいてくれる方が、相手は話しやすいに決まっています。

しかし、テクニックで相手の話を聞いているフリだけは絶対にしないことです。聞いているフリとは、BGMを聴くように聞き流していたり、うんうんと首をタテに振りながらも、心の奥底では「この人は話が長いなぁ。早く終わらないかなぁ」とよそごとを考えていたりすることです。案外、聞いているフリというものは相手はわかってしまうものなのです。

7:3の法則

7対3。この比率の意味するところは何でしょうか。これは、お客さまとの対話において、聞く量と話す量の割合を示したものです。経験豊富なベテランや話す力に自信を持っている人に陥りやすいワナは、話しすぎるということです。ニューエアのリサーチでも、聞く割合に比べて話す割合が偏った場合、契約比率と反比例するというおもしろい結果がでています。

あなたは、商談のとき、話す割合と聞く割合はどのくらいでしょうか。コミュニケーションに必要な要素は「話す」ことよりも「聞く」ことです。たしかに、ゲンちゃんとお客さまとの会話を観察してみると、いつも「聞くが七、話すが三」になっています。商売の世界では、売り上手は聞き上手といわれます。聞き上手は、お客さまに可愛がられます。相手がもっと話したくなる人というのは、聞き上手な人です。

ゲンちゃんのすごいところは、5つの分野を完全に網羅している点です。政治経済・歴史・芸術・ワイン・グルメについて造詣が深いため、国籍・人種・年齢問わず、どんな人でも楽しい会話が成り立つのです。

自分のこころに余裕をもつ

傾聴力を高めるコツは、テクニックではなく、まずは、自分のこころに余裕をもつということです。イライラした気分であったり、感情が高ぶっていたり、自分のこころに余裕もないのに、相手のこころをしっかり受け止めることはできないはずです。

傾聴はあくまで手段であり、その目的は相手のこころを理解するということです。楽しそうに聞いてくれる人に、話したくなるというのが人情です。相手が真剣に、自分の話を理解しようと懸命になっているときには、だれでもうれしくなり、心が次第に開かれていきます。

ゲンちゃんは「えぇ。えぇ。そうなんですね」と心地よい相づちを打って、相手がだれであっても、またそれがどんな内容でも、実に楽しそうに聞いています。それは、決してお世辞や演技ではなく、心から誠実に対応しているからです。傾聴とは、突き詰めると相手の気持ちにより添う聞き方といえます。とことん向き合う姿勢が相手との心を通わせるのです。


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